最終更新2011年7月4日

おすすめしたい本


今野 浩著,「工学部ヒラノ教授」,新潮社

 筑波大,東京工業大,中央大の工学系学部で教員として奮闘してきた著者の実録秘話。主に筑波大,東京工業大での経験が中心。実録秘話の言葉通り,同僚であった人々のことが実名を交えて語られている。国立大学の工学系という範囲を超えて,大学教員としての生活がいかなるものか,著者の思いを感じられる内容となっている。大学設置基準大綱化,大学院重点化,独立行政法人化といった最近の大学改革の虚実,研究費獲得競争,大学の社会貢献といった教員を取り巻く厳しい状況がよくわかる。同じ著者の「すべて僕に任せてください−東工大モーレツ天才助教授の悲劇」(新潮社)では,将来ある若い研究者の才能が削り取られる様が描かれている。

坂本光司著,「日本でいちばん大切にしたい会社」,あさ出版

 金銭,利益以外に大切にすべき価値があることを教えてくれる書。第一部では経営とは5人に対する使命と責任を果たす活動であるとし,5人の筆頭に社員とその家族,二番目に外注先・下請企業の社員とその家族をあげて,株主は5番目に置かれている。社員が自分の所属する企業に,不平,不満,不信を抱いていては経営がうまくいくはずがない。第二部では真に世のため人のためになる経営に懸命に取り組んでいる,筆者が価値ある企業とした中小企業8社が紹介されている。人間が大切にすべきことは何かを考えさせられる。同じ著者の「ちっちゃいけど,世界一誇りにしたい会社」(ダイヤモンド社)には呉市の福祉衣料・寝具メーカーのハッピーおがわが紹介されている。

波多野誼余夫・稲垣佳世子著,「知的好奇心」,中公新書

 伝統的な心理学では,人間は生来怠け者であり,アメとムチによって叱咤しなければ働くことも,学ぶこともしないと考えていた。しかし,怠け者と見なして叱咤すればするほど,人間は叱咤されなければ動かない怠け者となる。人間は本来,意欲的で,好奇心に満ちた存在であり,また意欲的に働く労働者であり,好奇心に基づいて学ぶ学習者である。いまだに人間は怠け者だと考えている経営者や教育者がいるとすれば,ぜひ一読して欲しい。

小澤 勲著,「痴呆を生きるということ」,岩波新書

 痴呆は脳の病気であり,認知機能の著しい低下が見られ,最近では認知症と呼ばれることが多い。しかし,それを病む人がどのような心的な世界に住み,どのように痴呆を生きているのかは,別の問題として考える必要がある。著者は20年以上にわたって,痴呆老人の治療,ケアにあたってきた経験から,それを病む人の心に沿った治療,ケアのあり方を提案している。終章に述べられた著者自身の状況とともに,多くの胸に迫る内容が含まれている。

岸見一郎著,「アドラー心理学入門−よりよい人間関係のために」,ワニのNEW新書(KKベストセラーズ)

 アドラーは,フロイト,ユングと並ぶ精神分析の著名な学者。最近,人間の生き方,子どもの教育などに関わって,その考えが広く注目され,実践されている。本書はそのアドラーの考えを知るのに好適の入門書。アドラーの人となりから始まり,人生,教育,人間関係を中心にして,アドラー心理学を日常生活に生かすための基本的な考えを知ることができる。子どもを勇気づけるには,健康なパーソナリティとは,人間とはどのような存在か,人生の意味とは,など実践につながる示唆に富んでいる。

R.カールソン著(小沢瑞穂訳),「小さいことにくよくよするな!−しょせん,すべては小さなこと」,サンマーク文庫

 人生にはくよくよ考えることが多くある。著者は,それらはすべて小さなことだからくよくよするな!,と説いている。「頭で悩みごとの雪だるまをつくらない」,「正しさより思いやりを選ぶ」,「思いを伝えるのは今日しかない」,「一年たてば,すべて過去」,「期待を捨てれば自由になる」など,100のアドバイスがそれぞれ2,3ページほどで書かれている。日本だけでなく本国のアメリカ合衆国など世界中で広く読まれているらしい。心理学的に言えば,物事は考え方次第,万事は気の持ちよう,という認知療法の実践版。

明橋大二著,「子育てハッピーアドバイス」,1万年堂出版

 子育てに悩む人々へのアドバイスを与える本。10歳くらいまでの子どもを対象としている。イラスト入りで文字が少なくとても読みやすい。ページ数も200ページ足らず。しかし内容は簡潔にして要を得ており,有益なアドバイスが多い。子どもの自己評価を高める,「がんばれ」ではなく「がんばっているね」と認める,十分に甘えた子どもが自立する,など発達心理学から考えてもうなづける内容。続編があり数冊からなるシリーズとして出版されている。思春期の子どもを対象とした「10代からの子育てハッピーアドバイス」もお勧めしたい。

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